M&Aにおけるデューデリジェンスには、「事業デューデリジェンス」、「財務デューデリジェンス」、「法務デューデリジェンス」、「税務デューデリジェンス」など、さまざまなものがあります。この中で、特に重要なものが「事業デューデリジェンス」です。
では、この「事業デューデリジェンス」とはどのようなものなのか、その一連の手続きや調査・分析手法、そして留意すべき点などについて見ていきましょう。

「事業デューデリジェンス」とその手続きの流れ

M&Aにおけるデューデリジェンスの中でも、特に重要な「事業デューデリジェンス」ですが、まず、どのような内容のものかを明確にした上で、その手続きの流れについて見ていきます。

「事業デューデリジェンス」とは

「事業デューデリジェンス」は「ビジネスデューデリジェンス」とも呼ばれるもので、その内容は、売手側企業の事業計画を基に事業性評価を行い、最終的な買収価格を決定していくための調査・分析です。

「事業デューデリジェンス」の手続きの流れ

「事業デューデリジェンス」の一般的な手続きの流れは、以下のようになります。
①まず、売手側企業では事前に事業計画書を作成しておきます。そしてこの事業計画書をベースにした希望売却価格を算出しておきます。
②売手側企業の作成した事業計画書を買手側企業が精査します。その結果、曖昧な部分や希望的、楽観的な部分があれば、修正や調整を行います。
③売手側企業の作成した事業計画書とは別に、買手側企業でも、M&A後の事業統合(PMI)におけるシナジー効果の視点から、独自の事業計画書を作成し、こちらもこれに基づく希望買収価格を算出します。 ④その後、修正や調整をした売手側企業の希望売却価格と買手側企業の希望買収価格を交渉により詰めていき、最終的な買収価格を決定します。
 以上の手続きの流れからわかるように、「事業デューデリジェンス」では、売手側企業の作成した事業計画書を買手側企業が精査するものですから、必然的に双方の企業が主体的になって実施されるものです。この点が「財務デューデリジェンス」、「法務デューデリジェンス」などのように、公認会計士や弁護士などの外部専門家に依頼するものとは異なる特徴があります。

「事業デューデリジェンス」の調査・分析手法

このように、「事業デューデリジェンス」は売手側企業、買手側企業が主体となって M& Aアドバイザーなどを交えて行うものですから、その調査・分析手法も、それに適した効率的なものが求められます。主なものに「経営戦略上の分析手法」や「管理会計上の分析手法」を準用したものがあります。

経営戦略上の分析手法の準用

まず、売手側企業を取り巻く外部環境分析によりリスクを抽出しておきます。そして範囲を絞って業界分析を行い、具体的なリスクを把握します。分析手法としては、SWOT分析、ファイブフォース(5つの競争要因)といったものが有効です。
 また、競争優位をもたらす経営資源の調査・分析であれば、BRIO分析といった手法も有効なものになります。

管理会計上の分析手法の準用

前者が定性的な調査・分析手法であれば、こちらは財務データを利用した定量的なものです。売手側・買手側企業が、通常の業務の中で利用している経営分析手法です。主なものに、「収益性分析」、「成長性分析」、「安全性分析」、「効率性分析」などがあります。これら以外でも企業独自の分析手法があります。適宜これらを活用することで効率的な調査が可能です。

「事業デューデリジェンス」の留意点

「事業デューデリジェンス」の内容、手続き、調査・分析手法を見てきましたが、その中で留意すべき点をいくつかあげておきます。
⚫︎売手側・買手側企業が主体となって行うものなので、外部の専門家に丸投げしないこと。
⚫︎調査・分析手法には複雑なものもありますから、あまり深く追求せず、手段が目的になってしまうことがないように注意すること。
⚫︎将来におけるシナジー効果といった視点から事業性評価を実施するといった心構えを忘れないこと。

以上、「事業デューデリジェンス」について、その内容、手続き、調査方法など、簡単に述べてみました。