デューデリジェンス(DD)は、M&Aプロセスの中でも極めて重要な位置付けとなっています。その目的は売買対象である売手側企業をさまざまな面から調査し、その売買の適否を判断するためのものです。
 主な手続きとしては、売手側企業から提出された資料を、「ビジネス」、「財務・税務」、「法務」、「人事・労務」、「情報(IT)」など、さまざまな切り口から調査し、その資料の信ぴょう性や資料にはない隠れた事実などを発見し、対応策をとるといった一連の流れになります。
 M&Aの早い段階では、買手側企業が受け取ることができる資料は、「ノンネームシート」といった売手側企業名を伏せた簡単な企業情報であったり、「IM(インフォメーション・メモランダム)」、あるいは「IP(インフォメーション・パッケージ)」といった一般的な企業概要情報に限定されます。
 その後、基本合意契約の締結により、買手候補企業が売手側企業より独占交渉権を得るとともに、機密情報も含めた詳細な内部資料の提供を受けることになります。これにより売手側企業についての実情が明らかになり、M&Aは一気に進むことになります。
 では、デューデリジェンスで必要とされる資料には、どのようなものがあるか詳しく見ていきましょう。

M&Aのデューデリジェンスで必要な資料

 M&Aでのデューデリジェンスの方法は大きく3つに分けられます。まず第一に「資料収集と分析・調査」、次に「現地・現場の確認」そして「経営者へのインタビュー」です。この中でも「資料収集と分析・調査」は大きなウエイトを占めています。

M&Aで売手側企業から買手候補企業に提供される主な資料

 売手側企業から買手候補企業へデューデリジェンスに際して提供される主な資料としては、次のようなものが一般的です。

⚫︎直近3年分の決算書及び確定申告書(勘定科目内訳明細その他一式)
⚫︎直近の試算表、その他の財務情報(総勘定元帳、得意先元帳、仕入先元帳などの帳簿)
⚫︎会社の案内・沿革といった企業概要書
⚫︎定款
⚫︎商業登録簿謄本
⚫︎過去から現在までの一連の株主名簿
⚫︎株主総会議事録、取締役会議事録、取締役決定書といった意思決定機関記録
⚫︎中・長期事業計画書
⚫︎不動産登記簿謄本
⚫︎3期分程度の固定資産課税台帳及び固定資産納税書など
⚫︎不動産売買契約・不動産賃貸契約書など
⚫︎不動産図面、建築確認など不動産関連資料
⚫︎会社組織図、従業員一覧表、雇用契約書、就業規則、労使協定、賃金台帳など雇用関連資料
⚫︎取引関連契約書、リース契約書、保険契約書、金銭消費賃貸取引契約書など契約関連資料
⚫︎知的財産関連資料
⚫︎訴訟・紛争関連資料
⚫︎行政許認可、行政指導その他行政関連資料

個別デューデリジェンスでの必要資料

 M&Aのデューデリジェンスは「ビジネス」、「財務・税務」、「法務」のデューデリジェンスをベースに必要に応じて「人事・労務」、「情報(IT)」、「不動産」、「知的財産」、「環境」といった面について分析・調査します。

「ビジネスデューデリジェンス」の必要資料

 「ビジネスデューデリジェンス」は、デューデリジェンスの中で最も重要なものです。売手側企業の過去から現在、そして将来における事業性を評価するものです。そのため必要となる資料は、貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)。キャッシュフロー計算書(C/F)といった財務諸表から、中・長期事業計画書とその具体的数値算出のための指標(KPI)などです。KPIの一例としては、小売業における単位面積当たり売り上げとか、ホテルや旅館の稼働率といった業界基準などです。

「財務・税務デューデリジェンス」の必要資料

「財務・税務デューデリジェンス」はビジネスデューデリジェンスのベースとなるものです。そのためビジネスデューデリジェンス同様の財務情報一式が必要となります。また、簿外債務といったオフバランス(貸借対照表に現れない項目)も調査対象となりますから、雇用関連資料、不動産関連資料、法務関連資料、契約書など他の分野の資料も必要です。
 税務面では、追徴リスク調査のための資料として税務申告関連資料が要求されます。

「法務デューデリジェンス」

「法務デューデリジェンス」では、売手側企業のコンプライアンス(法令遵守)が調査対象とされますから、簿外債務、訴訟提訴リスク調査のための現存するさまざまな権利義務関連契約書が必要です。契約書がない場合、代表者からのヒヤリングによる聞き取り情報も必要な資料の一つとなり得ます。

 デューデリジェンスは M&Aの中でも重要なプロセスですが、限られた条件のもとで実施しなければならないため、調査対象を絞り込むこと、そして必要とする資料も厳選しながら分析・調査するといった姿勢が大切です。