「デューデリジェンス(DD)」は、「買収監査」とも呼ばれています。この「デューデリジェンス」には、売手側企業(ベンダー)が、M&Aを実施するに先立って行うものもありますが、通常は、買手側企業(バイヤー)が行うものをいいます。
「デューデリジェンス」の対象は、「財務」、「法務」、「税務」などをはじめ、「労務」、「IT」、「環境」さらには、「不動産」、「知的財産」と広い範囲にわたります。
 これらすべてを監査しようとすると、大変な時間と労力そしてコストがかかってしまいます。またこれらの事項を精査するとなると、高度な専門知識や経験そしてノウハウが必要になります。そのため自社の担当スタッフのみでは限界があり、外部の専門家に委託することになります。
 ただ、それぞれの分野の専門家に依頼すればよいというものではありません。買手側企業のM&Aの目的、経営規模などから効率的に「デューデリジェンス」を行ってもらえる専門家選び、委託先選びが重要になります。

「デューデリジェンス」の委託先の選び方と留意点について

 現在、国内における「デューデリジェンス」の中心は、中小企業、小規模事業者に移っています。こうした事業者は、一般的には財政的に余裕がありません。「デューデリジェンス」には、多額の費用がかかります。そのため、「デューデリジェンス」の範囲と依頼する専門家の選定は、非常に重要になってきます。
 それでは主な「デューデリジェンス」と各々における委託先の選び方と、その際の留意点などについて見ていきます。

「ビジネスデューデリジェンス」

「ビジネスデューデリジェンス」は特に重要なものです。この「ビジネスデューデリジェンス」の結果により、企業価値や、最終買収価額といったものが大きく変わってきます。
 この「ビジネスデューデリジェンス」は、公認会計士、税理士、弁護士といった財務、税務、法務などの専門家でもできるものではありません。
 ここは、経営戦略の策定、M&Aのプロセス、特にデューデリジェンス、バリュエーション等について専門知識や経験を豊富に持ち合わせた、コンサルティングファームやM&Aアドバイザーといったところに依頼することが効果的な選択でしょう。
 ただ、こういった事業者の中には、手数料ばかり要求し、真剣にM&Aを成約しようとしないところもありますから、依頼先の選定には注意が必要です。

「財務・税務デューデリジェンス」

「財務・税務デューデリジェンス」は、「デューデリジェンス」の中でも基本となる重要なものです。先の「ビジネスデューデリジェンス」とも深く関わっているものです。
 財務・税務の分野は、公認会計士、税理士の業務領域ですから、委託先はこれらの士業となります。
 ただ、公認会計士や税理士が皆、M&Aを目的とした財務や税務の監査に長けているわけではありません。「デューデリジェンス」に詳しい知識や経験、ノウハウのある公認会計士・監査法人あるいは、税理士・税理士法人に依頼するのがよいでしょう。

「法務デューデリジェンス」

 売手側企業が取引先などと締結している契約が、M&A後の事業統合 ( PMI)に際し、不利に働くことはないかどうか、また、行政許認可の扱いはどうするのかなどについて調査するものです。通常は、弁護士・弁護士法人などに依頼することになります。「法務デューデリジェンス」についても、弁護士や弁護士法人が皆、企業法務について詳しいわけではありません。
 憲法などの人権問題、あるいは刑事事件がメインの弁護士などに依頼しても所期の目的は望めません。選定に際しては、依頼先のメインとする業務内容についての下調べも必要です。
 その他の「労務」、「IT」、「環境」その他の「デューデリジェンス」についても、単に専門家であればよいというものではありません。M&Aの視点からの「デューデリジェンス」に詳しい知識、経験、ノウハウを持ち合わせた人たちに依頼することが重要です。

「デューデリジェンス」は、M&Aの中でももっとも重要なプロセスです。ただ、コストや時間がかかりますから、監査対象を絞り込むこと、専門知識や経験豊富な専門家に依頼すること。そして、専門家に丸投げせず、可能な限り買手側企業も関与することで、効率よく行うことができます。