現在、大企業から中小企業、小規模企業者にまで、M&Aによる企業、事業の統合が行われるようになってきました。M&Aのプロセスはさまざまなものがありますが、その中でも重要なものが「デューデリジェンス(DD)」です。「ビジネスデューデリジェンス」「財務・税務デューデリジェンス」「法務デューデリジェンス」「労務デューデリジェンス」、そして近年重要性が急激に増してきた「ITデューデリジェンス」などがあります。
 以上のような「デューデリジェンス」のほかにも「環境デューデリジェンス」といったものもあります。自社の土地の上に工場設備を持つ企業が M&A売買対象である場合、周辺住民などから環境問題について訴訟を起こされたりするリスクがありますから、「環境デューデリジェンス」は必要不可欠なものになります。
 そして、この「環境デューデリジェンス」を実施するには、高度な専門性を有する外部の専門家に依頼することになります。

「環境デューデリジェンス」の必要性

 M&Aに際し、売買対象企業が土地・建物といった不動産、工場、機械設備などを保有している場合、これらのものによって引き起こされるかもしれない土壌汚染、大気汚染、騒音などの環境上のリスクを精査、分析、そして評価する必要があります。
 このような環境問題に対する社会の意識の高まりとともに、企業に向けられる目も厳しいものになっています。環境関連の法令も強化されています。
 また近年、大企業を中心に国境を超えたクロスボーダー M&Aも盛んに行われていますが、海外では極めて厳しい環境基準を設けている国も少なくありません。
 このような、諸々の事情により「環境デューデリジェンス」の必要性は、ますます高まってきています。

「環境デューデリジェンス」の調査範囲

「環境デューデリジェンス」は極めて高度な技術、知識、ノウハウ、そして装置などが必要なため、専門事業者に依頼することになりますが、多くの専門事業者が実施する「環境デューデリジェンス」の範囲としては次のようなものがあります。
⚫︎土壌、地下水の汚染、アスベスト、煤煙、有害排出ガス、騒音、振動、フロン等オゾン層破壊物質、排水その他水質汚濁、産業廃棄物、PCB(ポリ塩化ビニール)、その他の危険物
 社会的な意識のさらなる高まり、環境行政の強化、法令の強化などにより、今後、調査対象の範囲も拡大していくことが予想されます。

「環境デューデリジェンス」の手続きの流れ

 一般的な「環境デューデリジェンス」の手続きの流れは次のようなものです。

①M&A当事企業間における「環境デューデリジェンス」についての合意

 M&A当事企業間での対象とする土地・建物などの不動産、工場、機械設備といった調査対象物、調査対象範囲、そして調査手続きについての合意をする。

②「環境デューデリジェンス」に先立つ事前調査

「環境デューデリジェンス」に先立ち、調査対象である土地・建物、工場等のレイアウト、設計図面、環境アセスメント評価報告、関連法令等の適用範囲などの調査をおこなう。そして土壌汚染、水質汚染、煤煙、騒音、振動等、合意した調査項目にたいするデータ数値についての事前確認をおこなう。以上の事前調査、確認に基づく実施調査計画の策定をおこなう。

③実施調査

「環境デューデリジェンス」の対象である土地・建物、工場その他の設備とその周辺の環境についての実施調査、及び周辺住民などへの聞き取り調査をおこなう。

④事後の追加調査、調査報告書の作成

 先の実施調査以後も、必要があれば事後的に追加調査を実施する。最後にこれら一連の調査結果の報告書の作成とクライアントへの提出をおこなう。

 世界的な規模で環境に関する意識が高まっています。そして、企業の環境に対する取り組みについても厳しい目が向けられてきています。
 M&Aに際しても、環境への取り組み姿勢が厳しく問われます。そのため、 M&Aの売買対象資産に土地、建物などの不動産や工場設備が含まれている場合には、ある程度のコストを負担しても「環境デューデリジェンス」を実施すべきでしょう。