M&Aにおける「デューデリジェンス(DD)」の基本は、「財務・税務デューデリジェンス」「法務デューデリジェンス」です。これらをベースに「ビジネスデューデリジェンス」などを関連づけて精査します。
「財務・税務デューデリジェンス」は、「財務デューデリジェンス」と「税務デューデリジェンス」に分けて行うこともあります。今回は、この「税務デューデリジェンス」に焦点を当て、「財務デューデリジェンス」とも関連づけながら見ていきます。

「税務デューデリジェンス」とは

「税務デューデリジェンス」を行う目的は、すでに終了している税務申告について、今後、追徴課税の対象とならないかといったことを中心に監査することです。
 M&Aのスキーム(手法)には、「合併」「会社分割」「株式譲渡」「事業譲渡」など、ざまざまな種類のものがあります。これらのいずれを採用するかによって、税務上の取り扱いが異なってきます。あるスキームを取れば課税が繰り延べられたり、また、ほかのスキームの場合には課税されたりします。こうしたスキームごとの対象企業における税務ポジションを見極めることも「税務デューデリジェンス」の目的です。
 さらに、国境を越えたクロスボーダーM&Aでは、それぞれの国における税制も異なってきますから、「税務デューデリジェンス」はより注意して実施する必要があります。では、もう少し詳しい内容について見てみましょう。

「税務デューデリジェンス」の必要性・重要性

「財務・税務デューデリジェンス」と呼ばれるように、財務と税務は密接な関係にあります。貸借対照表や損益計算書、あるいはキャッシュフロー計算表といった財務情報をもとに、税務申告をするわけですから、一般的には、財務・税務と関連づけて監査します。
 過去の税務申告についてM&A後、追徴課税されるリスクは意外と高いものです。そのほかにも、簿外債務や偶発債務が発生した際の、税務面からの評価も事前にしておく必要があります。そのため、「財務デューデリジェンス」と関連づけながらも独立した「税務デューデリジェンス」として、外部の専門家である税理士の監査が重要になってくるのです。

M&Aスキームと「税務デューデリジェンス」

 M&Aスキームには、会社や事業を包括的に引き継ぐものと、各々個々の資産・負債といったものを交渉により引き継いだり、引き継がなかったりといったものに分けられます。
前者の代表が「株式譲渡」です。この場合、「税務デューデリジェンス」の必要性は高くなります。
 また、後者としては「事業譲渡」が該当します。こちらは契約による、債権・債務関係などを個別に交渉しますから、簿外債務を引き継ぐといったリスクもなく、「税務デューデリジェンス」の必要性はそれ程高くありません。

主な「税務デューデリジェンス」の内容

①過年度税務調査の状況について

 まず、税務調査対象となった事業年度の税務状況を把握すること。これらの事業年度は「税務デューデリジェンス」の監査対象から外してもよい。ただ、今後、税務調査の対象となり得る事業年度のために、当該企業の税務に対する姿勢やコンプライアンスなどについては調べておく必要がある。

②過年度確定申告の内容について

 過年度における確定申告書の内容について、異常な数字や内容について確認する。たとえば、貸倒損失の計上による異常な損金算入などがある場合、その税務処理は妥当なのか検証してみるといったこと。

③過年度組織再編等について

 組織再編に関する法令は、税法を含め頻繁に改正が行われているため、これらに対する税務処理に誤りはないか調べてみること。非適格組織再編にも関わらず、適確組織再編として税務処理していると追徴課税の対象となるので、その処理についての精査が必要となる。
 そのほかにも繰越損金の状況、繰延税金資産、負債の分析・把握、移転価格についての分析などがあります。

 このように、財務とは別に「税務デューデリジェンス」により、税務上のリスクが判明した場合、そのリスクが定量的に把握できるようであれば、買収価額に反映させ、減額交渉したり、最終譲渡契約書の表明保証の内容に、その対応策を盛り込むなどの方法が考えられます。