M&Aにおける「デューデリジェンス(DD)」の対象は、「ビジネス」、「財務・税務」、「法務」、「労務」、「環境」、「不動産」など広い範囲にわたります。また、これらの「デューデリジェンス」とともに「ITデューデリジェンス」もそのひとつに当たります。「ITデューデリジェンス」もほかの「デューデリジェンス」同様、M&Aに際し、その組織再編や経営戦略の観点から、IT投資が適正に行われているのか、そして、ITシステムがどれほどの売却価値があるのかなどを監査、評価します。そして、その結果を財務数値で定量的に把握します。
 そのほかに、「ITデューデリジェンス」では、ITシステムの適合性、保守、管理システム(体制)といった機能そのものの監査、評価も実施するといった特徴があります。
 このように「ITデューデリジェンス」は、「税務・税務」、「法務」などの専門家、経営戦略に長けた経営コンサルファーム、M&Aアドバイザーだけでは実施できず、また、IT専門の事業者でも適正な監査、評価をすることは難しくなっています。
「ITデューデリジェンス」には、財務・法務に明るく、高度な経営戦略長けており、かつITの高度な専門技術、知識を持ち合わせた 「ITベンダー」、「ITストラテジスト」のようなスペシャリストに依頼することが必要になってきます。

「ITデューデリジェンス」の必要性

 冒頭で述べたように「ITデューデリジェンス」の必要性は、まずM&Aによる組織再編や経営戦略上の目的に、どれほど有用なものか、どれほどの売買価値があるのかの視点から実施するためです。
 近年は、上場企業のような大企業だけでなく、中小企業でもその経営業務の運営上、ITシステムが非常に大きな位置づけとなっています。重要な経営業務のデータはITシステムで作成し、保存されています。そのため、M&Aによる組織再編、経営戦略による事業統合(PMI)においても、またその後のシナジー効果による企業価値の継続的増加の面からも、買収企業、被買収企業双方のITシステムの統合が全ての基本となっています。
 もうひとつの必要性も、先に述べたように、ITシステムの機能そのものの監査、評価を行うためです。買収・被買収企業双方のシステムの統合ができるのか、被買収側企業のITシステムは陳腐化していないかといった面、また、サイバー攻撃によるITシステムの停止や混乱、重要な企業の機密情報のリークといったリスクについて、当該企業がそのようなセキュリティー体制を実施しているのかも重要な監査、評価の論点になっています。
 そのほかにも、親子会社の子会社、グループ企業の傘下企業がM&Aを行う場合にも、「ITデューデリジェンス」は非常に重要になってきます。通常、こうした子会社や傘下企業は、親会社、持株会社(ホールディングカンパニー)のITシステムを利用しています。それが M& Aによりその後は利用できなくなります。新たな ITシステムはどうするのか、新システム導入に際し、どれほどのコストが必要になるのか、その際のデータ移行はどうするのかといった財務、技術両面からの問題が生じてきます(こうした問題をスタンドアローンと呼びます)。
 以上、諸々の事情により「ITデューデリジェンス」の必要性は、ますます高まっていきます。

「ITデューデリジェンス」の範囲、内容、評価方法について

 最後に、「ITデューデリジェンス」の対象となる範囲、監査、評価する内容、そして価値評価の方法について見ておきます。

「ITデューデリジェンス」の範囲

「ITデューデリジェンス」の範囲については、ハード、ソフト両面から見ていきます。

⚫︎ハードウェアやネットワークシステム
⚫︎ソフトウェア
⚫︎ITシステムのユーザー、契約による外部ベンダー等について

「ITデューデリジェンス」の内容

⚫︎「ITシステム」投資の適正についての金銭的評価について
⚫︎「ITシステム」の機能、有用性、コスト、管理体制等について

「ITデューデリジェンス」での価値評価の方法

⚫︎「ITシステム」開発に要したコストを積算して算出する「製造原価法」
⚫︎将来の予想営業利益をもとに、何年で投資額を回収できるかといった「回収期間法」
⚫︎将来キャッシュフローを現在価値に割引いた現在価値の総額による「正味現在価値法(NPV)」

 今後の企業経営にとって、ITはますます重要な経営資源となっていきます。「ビジネス」、「財務・税務」、「法務」などのデューデリジェンスとともに実施していくことが重要です。