M&Aにおけるデューデリジェンスには、「ビジネス(事業)」、「財務・税務」、「法務」などがありますが、「人事デューデリジェンス」も重要なもののひとつになっています。「人事デューデリジェンス」の対象は「ヒト」です。会社にしろ事業にしろ「ヒト」がその中心です。そのために「ヒト」に関するさまざまな状況を調査・分析するものが「人事デューデリジェンス」になるわけです。 では、「人事デューデリジェンス」について、その目的、調査対象、ポイントなどについて見ていきましょう。

「人事デューデリジェンス」の目的と必要性

「人事デューデリジェンス」を実施する目的は、M&Aを成功させるためにリスクとなり得る事項を洗い出して、その対策を行うための調査・分析を実施することです。この点は、「ビジネス(事業)」、「財務・税務」、「法務」といった他のデューデリジェンスと同様です。  そのほかに「人事デューデリジェンス」独自の目的として、M&A後の事業統合(PMI)の視点からのリスクチェックや、そのための現状の人事、労務面の把握があります。一般的なリスク対策は、最終譲渡契約が締結されたあと、クロージングまでにもう一度リスクの見直しを行い、クロージング後の本格的な事業統合がスムーズに進むための対応策を考えます。  ただ、「人事デューデリジェンス」の対象は「ヒト」です。経営資源のひとつである、この「ヒト」は、「モノ」、「金」などと異なり、意思を持った従業員という「人」そのものです。そのため、対応には細心の注意と十分な取り扱いが要求されます。最終譲渡契約前の デューデリジェンスの時点で、リスクの洗い出しだけでなく、早くから時間をかけた対応策をとることが重要になります。

「人事デューデリジェンス」の調査・分析の対象は?

「人事デューデリジェンス」の調査・分析の対象項目としては次のようなものがあります。

買収対象企業や事業の人員構成などについて

 まず最初に、売買対象企業や事業を構成する従業員について把握するものです。
対象となる従業員の総数から始まり、個々の従業員の年齢、勤続年数、所属部署など、細かな点まで調査します。

役員やキーパーソンに関するものについて

 取締役などの役員や、対象企業の中で中心となるキーパーソンについての調査や、企業のガバナンス体制の分析といったものがあります。

人件費などのコストについて

 買収対象企業や事業を引き継いだあとの、事業統合時の人件費などのコストについての調査や分析です。事業統合後の人件費総額の把握や、同業他社の人件費水準との比較・分析を行うものです。

労使関係について

 労働組合はあるのか、労使の関係はどうなのか、労使間での訴訟や争議、ストライキといったものはあるのか、といったことが調査対象です。

労働契約その他労務管理について

 労働関連法規に対するコンプライアンス上の問題の有無や、労働協約、労使協定、就業規則、個々の従業員との雇用契約などの調査や分析をすることです。

人事制度について

まず、人事制度の中心である報酬体系についての調査・分析から始まり、年金や福利厚生といった財務とも関連する事項が対象となります。また、こうした人事制度が機能しているかといった点も調査・分析します。

企業文化・企業風土について

買収対象企業の従業員間で共有されている、企業文化・企業風土といったものが対象です。どのような内容のものか、経営トップや幹部の理解は得られているのか、社是、社訓といった経営理念との整合性はどうかといった面から調査・分析します。
 他の調査・分析対象が定量的なものが多いのに対し、定性的なものが対象ですから、調査・分析が難しいところがあるかもしれません。

以上、「人事デューデリジェンス」は、その調査・分析対象が「ヒト」であることから、ほかのデューデリジェンスとは違った対応が求められること、将来の事業統合といった視点から実施する必要があるといった特徴があります。