デューデリジェンスは、M&Aプロセスの中でも特に重要な位置付けとなっています。通常、M&Aでは基本合意契約までは、売手側、買手側双方が開示、提供される資料や情報が正しいことを前提に、面談・交渉を進めます。
 この基本合意により、買手側企業は独占交渉権を得ることで、本格的なM&Aの交渉へと進みます。そのため、今まで開示や提供された資料、情報といったものが正確なものかの検証が必要になります。これがデューデリジェンスです。
デューデリジェンスで調査する対象は、「ビジネス(事業)」、「財務・税務」、「法務」、「人事」、「IT」、「環境」、「不動産」といったさまざまな方面に及びます。この中で「法務デューデリジェンス」は、売買対象である売手側企業を取り巻く法的な側面を調査・分析するものです。

「法務デューデリジェンス」とは

会社は、さまざまな面で法律による規制を受けながら運営されています。その設立手続きから始まり、行政許認可、取引企業、金融機関、その他ステークホルダーとの間でいろいろな契約を締結することで、事業活動を行っています。
「法務デューデリジェンス」は、こうした売買対象企業や事業上の法的な基本事項の検証と確認、重要な契約内容の調査、違法あるいは不当な行為の有無の確認、知的財産権法や独占禁止法といった重要な法律との関係の調査。そして、債務不履行や不法行為が原因の訴訟のリスクや継続している訴訟の有無の調査や確認といった、広範囲にわたって実施されるものです。ただ、これらすべてを調査していては、大変なコストと時間がかかってしまいます。外部の専門家である弁護士に依頼するため、その報酬額は1日当たり数十万年といった金額になる場合もあります。また、時間とともに対象企業を取り巻く経営環境の変化により経営状況が悪化し、当該企業の売却価格を低下させてしまう事態になりかねません。
 そのため調査対象を絞り込む必要があります。買手側企業に必要な契約や許認可についての調査や、独占禁止法などの重要な法律との関係の検証といったものに限定して実施することが重要です。  次に、主要な対象事項や実施する上での留意点、そして他のデューデリジェンスとの関連などについて見ていきます。

主な調査・分析の対象事項は?

主な調査・分析の対象事項としては、まず、売買対象会社が受けている行政許認可と関連する書類内容、M&Aで重要となる契約条項、そして訴訟リスクと継続訴訟の有無などについてです。

行政許認可と関連書類

M&Aにより会社や事業を引き継ぐ際、売買対象企業が受けている行政許認可をそのまま継続できるのか、各種の届出の効果はそのまま有効なのかの確認や、行政当局への問い合わせが必要です。  新たに許認可を受ける必要がある場合には、その手続きや必要となる添付書類の内容確認と作成といったことが必要になります。
 先にも述べましたがM&Aでは時間との勝負になります。デューデリジェンスの時点でこれら一連の手続きをしていては、M&Aが後手にまわってしまいます。あらかじめ、買手側企業の法務担当者が、行政当局に事前の相談をし、必要な添付書類などを作成したり、取り寄せておくなどの対応が有効でしょう。

主要な契約条項

買手側企業がM&A後の事業統合で必要となる、取引上の契約についての調査も重要なものです。特許のような知的財産権の取り扱いなどは、特に重要な調査項目となります。特許権者の確認、ライセンス契約の可否など、重要なチェック項目です。
 また、留意すべき点としては、契約内容に「チェンジ・オブ・コントロール」条項があるかどうかのチェックです。この条項があると、契約当事者の一方が変わると、他方は契約解除できるといったものですので、事業統合で必要な契約が引き継げなくなるおそれがあります。

訴訟リスクの有無と継続訴訟の確認

債権不履行や不法行為による損害賠償訴訟のリスクの洗い出し、現在継続している訴訟についての対応、協議が必要になります。
 従業員への賞与や残業代の未払い、過去にさかのぼっての追徴課税などの簿外債務も訴訟へと発展しかねません。この場合、「税務」、「人事」の各デューデリジェンスと連携した対策が必要となります。

「法務デューデリジェンス」はデューデリジェンスの中でも重要な位置づけとなっています。ただ、これを単独で実施するのではなく、他のデューデリジェンスと連携しながら行っていくことが重要です。連携しながら同時に実施することで、時間、コストの大幅な削減ができますし、単独では見落としてしまうリスクなども発見できます。
 また、外部の弁護士といった専門家に調査・分析を丸投げするのではなく、社内の法務担当者が、できることは自前でやるといったことも重要です。