デューデリジェンス(DD)は、M&Aのプロセスの中でも最も重要なものの一つです。一般的なデューデリジェンスは最終的な契約を締結する前に、買手側企業が売手側企業や事業の内容や売却価格などが適正かどうか詳細に調査することです。ただ、限られた時間、コスト、人員といった条件のもと、極秘に行わなければならないため、大変な作業となります。
 それでもデューデリジェンスを実施するということは、何らかのメリットがあるためと思われます。今回は、デューデリジェンスの目的や必要性、重要性を前提にして、そのメリットについて見ていくことにします。

M&Aにおけるデューデリジェンスのメリット

 M&Aでのデューデリジェンスというと、買手側企業が売買対象である売手側企業や事業を、基本合意契約締結後、最終譲渡契約に至る前に実施するものが一般的なものです。
 このほかにも、基本合意契約前に実施される予備的なデューデリジェンスや、最終譲渡契約締結後、クロージング(決済)に至る前にもう一度行われる事後的なデューデリジェンスもあります。
 一方、売手側企業でも本格的なM&Aプロセスに入る前に行われるデューデリジェンスもあります。以下、本来の買手側企業によるデューデリジェンスを中心に他のデューデリジェンスについても、どのようなメリットがあるのか見ていきます。

買手側企業にとってのメリット

 買手側企業によるデューデリジェンスは「バイヤーデューデリジェンス」などとも呼びます。その中心は先のも述べたように、基本合意契約を締結したあと、最終譲渡契約といった最終フェーズに至る前に実施されるものですが、なぜこのタイミングで実施されるのか、何らかの理由、そしてメリットがあるはずです。
 M&Aのプロセスは、基本合意契約を締結するまでは、売手側企業が有利な立場で進められます。売手側企業は複数の買手候補企業の中から最終的な買手企業を選べるポジションにあります。その後、特定の買手候補企業が意向表明することで、M&Aに対する真剣な姿勢、本気度といったものが確認できると、基本合意契約が締結され、それとともに買手候補に独占交渉権が与えられます。これにより買手候補企業が有利な立場になります。
 それまでの限られた開示情報では、M&Aの目的であるシナジー(相乗)効果が発揮され、将来にわたって企業価値が増加するといったことに対し、明確な見通しが立たず、不安だったものが、一気に解消されます。
 売手側企業からの信用と独占交渉権により、協力を得ることができるようになります。機密情報を含め、さまざまな情報や資料の提供が受けられます。その結果、売手側企業をそのビジネス、財務・税務、法務、人事・労務、情報(IT)その他のさまざまな切り口から分析・調査し問題点を抽出、対応策を立てることができるようになります。
 これによりM&Aの見通しが明確になってきます。デューデリジェンスの結果、M&Aを中止するのか、M&Aスキームの変更、売買価格の見通しなどによりM&Aを続行するのかといった対応策が可能になります。
 基本合意契約から最終譲渡契約にかけて本格的デューデリジェンスを実施する最大のメリットがこうしたものです。
 そのほかにも、買手候補企業では、基本合意契約までに、予備的なデューデリジェンスや最終譲渡契約後からクロージング(決済)のタイミングで行う、事後的・確認的なデューデリジェンスを行うこともあります。
 前者のメリットとしては、あらかじめ提供された限定的な情報と独自に収集した資料から買収対象企業の概要と自社の事業との相性、シナジー(相乗)効果の可能性などを事前に認識することで、その後の本格的なデューデリジェンスを効果的に実施できるメリットが考えられます。
 また、後者のメリットとしては、デューデリジェンスが、簿外債務の発見、債務不履行などで訴訟に発展してしまい、クロージング(決済)まで延びてしまうといったことを想定し、最終譲渡契約事項として、売手側企業の責任・義務を明確にしておきます。その結果M&Aがブレイクするリスクも軽減し、コストも抑えられるといったことが期待できます。

売手側企業のメリット

 近年、売手側企業でも、本格的M&Aプロセスに進む前にデューデリジェンスを実施することが多くなってきました。「ベンダーデューデリジェンス」と呼ばれるものです。
 主なメリットとしては、自社、あるいは自社の事業を事前に分析・調査することで、合理的な希望売却価格の設定ができ、また、自社とのシナジー(相乗)効果と企業価値の整合性などについて、本格的な面談、交渉局面で具体的数値などをもって説明することができるなどが考えられます。

 M&Aでのデューデリジェンスは、限られた時間、労力と多くのコストがかかるものですが、そのメリットには大きなものがあります。こういった点を理解し確実に行うことがM&Aの成功には必要です。