M&Aのデューデリジェンス(DD)の中で、重要なものに「財務デューデリジェンス」があります。「財務デューデリジェンス」とは、売買対象である売手側企業の作成する財務諸表が適正か、また、企業価値算定のもととなる基本情報の作成、開示なども適正に行われているかなどを調査・検証するものです。
 M&Aにおける企業価値の算定(バリュエーション)は、適正な財務情報にもとづいて行われることが重要です。不適切な会計処理による財務情報をもとに算定された企業価値を前提に交渉しても、よい結果は得られません。
 このように「財務デューデリジェンス」は売手側企業が作成する、「貸借対照表」、「損益計算書」、「キャッシュフロー計算書」による当該企業の「適正」な財政状態、経営成績、キャッシュフロー、すなわち現金収支などを調査・検証するものです。その対象範囲は、相当広いものになります。
そのため、ここでは、個々の勘定科目や具体的数式には言及せず、一般的な「財務デューデリジェンス」の調査、分析対象について解説していきたいと思います。

経営成績としての適正な収益力

 適正な収益力、正常な収益力は「ビジネス(事業)デューデリジェンス」との関係においても重要です。「ビジネス(事業)デューデリジェンス」は、正常な収益力をベースに企業価値が決まり、その結果、売手側・買手側双方が納得する買収価格に集約されるものです。そのためにも、適正な財務諸表(損益計算書)の作成が求められてきます。
「財務デューデリジェンス」は、売買対象の売手側企業が作成した、過去から現在にいたる財務諸表(損益計算書)を調査・分析します。その際のポイントは、通常とは異なる「異常な事項」をチェックすることです。過去数年における異常な利益、通常考えられない損失などを発見することです。その結果を「ビジネス(事業)デューデリジェンス」へフィードバックさせるのです。
 その際、重要なのが、適正な財務諸表をベースにした「管理会計」のデータについての有無と内容のチェックです。特に、中小企業ではこうした管理会計による利益計画といったものの知識、ノウハウが乏しく、管理会計が中途半端であったり、行っていないといったことが多く見受けられます。また、この管理会計のデータは「ビジネス(事業)デューデリジェンス」の際の重要なツールでもありますから、「財務デューデリジェンス」の中でも優先して調査していく必要があります。
 このように「財務デューデリジェンス」の場合、「ビジネス(事業)デューデリジェンス」とは密接な関係にありますから、連携、協議、そしてサポートすることが欠かせません。

財政状態についての調査・分析

財政状態についての調査や分析は、主に売手側企業が保有する資産についての含み損益と、簿外債務の把握についてです。まず、当該企業の貸借対照表に表示されている資産で、 M& A後、買手側企業にとって利用価値のない資産の有無についてのチェックから始まり、保有している有価証券や不動産の含み損益の把握、そして、減損処理の必要性などについてのチェックをし、さらに将来発生するリスクのある簿外債務の有無についても調査・分析します。
 簿外債務となり得るものとしては、未払い賞与、残業代、過去の申告納税に対する追徴課税、債務不履行に対する損害賠償訴訟の可能性といったものがあります。簿外債務は、その後のM&Aの成否に大きく影響してきます。またこれらの事項は他の「法務」、「税務」、「人事」の各デューデリジェンスでの調査事項でもありますから、これらと連携し、効果的に実施することが重要です。

キャッシュフローについての調査・分析

売買対象会社が保有するキャッシュフローについての調査・分析も「財務デューデリジェンス」の重要項目です。その際、留意すべき点としては、正常な利益によるキャッシュフローだけでなく、「運転資本」から生じるキャッシュフローの把握です。具体的な算式は省略しますが、減価償却費などの非資金性費用や売掛金、買掛金、設備投資額についての検証や分析が必要となります。

以上「財務デューデリジェンス」について、売買対象である売手側企業の財政状態、経営成績、キャッシュフロー収支といった一般的な内容に限定し述べて見ました。